仙台高等裁判所 昭和31年(ナ)8号 判決 1958年2月15日
原告 小針伝 外一名
被告 福島県選挙管理委員会
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は全部原告らの連帯負担とする。
事実
原告ら代理人は、昭和三一年五月一〇日執行された福島県岩瀬郡岩瀬村の境界変更に関する投票の効力につき、被告がした訴願棄却の裁決を取消す。右投票の効力は無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、その請求の原因として、
(一) 福島県知事は福島県岩瀬郡岩瀬村に対し、同村大字滝の一部を同郡長沼町に編入するにつき、廃止前の町村合併促進法(以下単に法という。)第一一条の三の規定により、昭和三一年三月一二日付書面をもつて合併の勧告をし、同村選挙管理委員会に対し、同年四月一七日付書面をもつて賛否投票の請求をし、同選挙管理委員会は同年五月一〇日当該地域内の選挙人の投票を執行し、原告らはいずれも右投票の選挙人である。
(二)(イ) 法第一一条の三の規定によれば、県知事は特に必要と認めるときは、町村合併促進審議会の意見をきいて、いわゆる合併の勧告をすることができ、これにつき関係市町村議会が勧告と異なる議決をした場合、または三〇日以内に議決をしない場合は再び同審議会の意見をきいて、いわゆる住民投票の請求をすることができる旨定められている。
(ロ) 知事が町村合併につき勧告をし、または賛否投票の請求をするには、それぞれ町村合併促進審議会の意見をきくことが法律上の要件とされているにかかわらず、福島県知事は前記合併の勧告及び住民投票の請求をするにつき、福島県町村合併促進審議会の意見をきいていない。もつとも、福島県知事が昭和三一年二月一七日付書面をもつてした合併の第一次勧告には、適法に同審議会の意見をきいたのであつたが、福島県知事は同年三月一二日付書面をもつて右第一次勧告を取消し、第一次勧告と別異の内容の第二次勧告をしたのであるが、これについては全く同審議会の意見をきいていない。
法が知事に住民投票の請求をするに当り、改めて町村合併促進審議会の意見をきくように定めたのは、知事が関係市町村議会の議決を尊重しないで、住民投票に問い町村合併を強行しようとする場合であるから、特に慎重を期し、重ねて町村合併促進審議会の意見をきくように定めたものであることは疑を容れない。
したがつて、福島県知事の前記勧告(第二次)は法律上の要件を欠き無効というべきであり、無効の勧告を前提とする住民投票の請求及び投票の手続はすべて無効に帰するものといわなければならない。
(三) それで原告らは、岩瀬村選挙管理委員会に対し、昭和三一年五月一〇日執行された住民投票の効力につき同月二二日異議を申立てたところ、同選挙管理委員会は、同年六月一二日原告らの異議申立を却下したので、原告らはこれを不服として同月三〇日被告委員会に訴願したが、被告委員会は、「選挙管理委員会は、選挙事務の管理執行に関する問題についてのみ権限を有し、選挙の事前手続についてはこれを判断する権限はない。」との理由をもつて、原告らの訴願を棄却する裁決をし、その裁決書は同年一一月七日原告らに送達された。
(四) しかし、右裁決には次の不当がある。
すなわち、選挙管理委員会が選挙の事前手続につき審査する権限がないということは、法文上の根拠がないばかりでなく、いやしくも選挙管理委員会が選挙の管理執行に当る機関である以上、自ら執行する選挙が適法であるかどうかを当然審査する権限を有すべき筋合であつて、すでにわが国の判例は、選挙の無効は法定の選挙訴訟によつて争うべく、一般の行政訴訟として争うことは許されないものであり、投票の事前手続における箇箇の処分の違法は、投票に関する争訟において、投票無効の原因として主張すべきことを確定しているのである。(最高裁判所判決昭和二六年二月二〇日集五巻三号九六頁、同昭和三二年三月一九日集一一巻三号五二七頁、東京高等裁判所判決昭和二六年七月九日行集二巻三号三六三頁、仙台高等裁判所判決昭和二五年七月二四日行集一巻六号八四二頁)
よつて、原告らの訴願を棄却した被告委員会の裁決並びに住民投票の無効なることの宣言を求める。
(五) 被告委員会(二)の主張に対し、
福島県知事の岩瀬村に対する第二次勧告は、長沼町に編入しようとする区域自体に変更はないが、第一次勧告と第二次勧告とでは次のような実質的な差異がある。
すなわち、岩瀬村役場の調査によると、第二次勧告の長沼町に編入すべき地域としたところは、約一五九町八反で、第一次勧告より主な字だけで約一二七町四反(七九・七パーセント)を減じているのであり、仮に福島県町村合併促進審議会が、若干の区域の変更を福島県知事に一任する旨の了解があつたとしても、右のように著しく異なる区域の変更までも福島県知事に一任したと解することができない。
被告委員会は、第一次勧告と第二次勧告とを別箇の行政処分とみるのか、第二次勧告は単に第一次勧告(行政処分)の字句の訂正にとどまり、行政処分としては第一次勧告があるのみであると解しているのか不明であるが、もし後者の意味とするならば、「これを取消す。」との文言から被告主張のように解することはできない。のみならずもし被告主張のように解すると、関係町村議会の議決その他(法第一一条第二項、第一一条の三第三項)も第一次の勧告の日を基準として進行しなければならないこととなつて不合理となる。
したがつて、福島県知事の第二次勧告は、第一次勧告を取消し消滅させた行政処分というほかはない。
(六) 被告委員会(一)及び(四)の主張に対し、
福島県町村合併促進審議会は、関係町村議会が、知事の勧告を容れない場合、知事が同審議会に再度付議しないで住民投票の請求をし得ることを決議し、答申した事実はない。仮にそのような事実があつたとしても、会議体が具体的に議案とされたものでないものに右のような抽象的決議をすることは、会議制度の根本理念にもどるものであり無効である。すなわち、法第一〇条の三第一項の決議は、単に合併の可否を審議答申すべきであるに反し同条第三項の住民投票についての決議は、関係町村議会の意思を無視して知事の意見を強行しようとすることについて可否を論ずるものであるから、両者は全く付議内容を異にし、単に合併勧告の可否につき諮問があるからといつて、当然に住民投票の請求をすることの可否についてまでも諮問があるものということができないのであり、後の諮問がないのに決議したとしても、議案なく決議したことに帰するのである。
法が一定の事項を会議に付すことを要件としている場合には、正式の会議を開き討議して決をとる形式によるべきであり、これを省略することはできない。右の形式は集会討議という方法によつて、構成員箇箇の知能の総和以上の英知が生み出されるという理念にもとづく意思決定の方法であり、これを無視して予め事案の何であるかもわきまえずに、知事に委せようとすることは、審議権の放棄ともいうべき無効の決議である。
(七) 被告委員会(三)の主張に対し、
意見をきくことが法律上の要件とされているにかかわらず、これをきかなかつた場合、その法律効果はその意見に拘束されないことにより結論することができない。審議会の意見に拘束されないということは、審議会の意見をきいてはじめて生じることであり意見をきかないで住民投票の請求をした場合は、審議会の意見に拘束されるかどうかにかかわりなく判断されなければならない事項である。
思うに、市町村の区域の変更は、上級行政庁の行政上便宜の立場から行うべきでなく、住民の歴史、経済生活、感情などを十分に勘案して慎重に行わなければならないのである。法は行政庁である知事のおちいりやすい独善的専横に対し、民衆の意思を反映させるため、特別の必要ある場合知事に審議会の意見をきいて合併を勧告することを許し(法第一一条の三第一項)、関係議会の同意を得られない場合は、特に慎重を期し、改めて審議会の意見をきいた上、はじめて知事に住民投票の請求をすることができるものとしている(法第一一条第三項)。
知事は必ずしも審議会の意見に拘束されないかも知れないが、審議会の意見を聴いて判断する場合と、全然審議会の意見をきかないで判断する場合とでは、その間自ら径庭があり、審議会の意見に拘束されないからといつて、審議会の意見をきくことも不要であるとする見解は、まさに官憲専制の緒を開く危険性を包蔵するものであつて、憲法の保証する民主主義の立前からしても許されない。
(八) 原告らが本件町村合併計画に反対する事情、
岩瀬村大字滝は、字本郷と字滝原との両部落に分れているが、両部落とも耕地が少いため、住民は所在国有林木の縁故払下により木炭を製造し生計を立てている。そして右国有林は公簿上約四〇〇町歩(実際は約八〇〇町歩)で、元録年間から滝部落民の入会山であつたが、明治初年所属不明の故をもつて国有林に編入された。大字滝は明治三二年法律第九九号国有林土地森林原野下戻法の施行直後行政訴訟を提起し、右国有林の下戻を求め、係争数十年昭和二十九年に及んで、その約半分を民地とし、約半分を国有林とするが、この国有林の部分については、従来永年にわたり慣行としてきた林木の払下を継続することで、ようやく解決をみるに至つた歴史を有する。
本件町村合併計画によると、右国有林につき従来等しく地元住民として払下の権利を保証されてきた字本郷と字滝原の両部落のうち、字本郷は岩瀬村から長沼町に移され、独り字滝原のみが地元住民たる資格を留保することとなつたのである。そして国有林木の払下は、地元住民に優先して行われているのであつて、国有林野及びその産物払下の根拠法である予算決算及会計令(昭和二二年勅令第一六五号)によれば、随意契約によるべき場合として第九六条第二二号をもつて、「土地建物又は林野若くはその産物をこれに特別の緑故がある者に売払又は貸付をなすとき」と定められ、さらに林野庁長官は、「従来の慣行により家庭工業材料、薪炭の材料、副産物及び土地を地元住民に売払うとき」については、予め大蔵大臣と令第一〇二条の協議を了し、随時払下を行つているのが国有林木払下取扱の実際である(昭和三〇年林野庁通達第三、〇七六号)。
かように、国有林木の払下は、旧慣のほかに地元住民であることも要件とされているのである。しかも大字滝部落民は三〇年前までは大字梅田地区の国有林の払下をも受けていたが、人口の増加と立木が減少した結果地元住民優先の名目のもとに、国有林木の払下は大字梅田住民のみに制限されるに至つた苦い経験を有するのであつて、原告らをはじめ字本郷部落民は前記国有林につき他町民となることから生ずる不安は黙して甘受することができないのである。と述べた。
(立証省略)
被告代理人らは、主文同旨の判決を求め、答弁として、原告ら主張(一)の事実、(二)(イ)の事実及び(三)の事実は認めるがその余の事実は否認する。
(一) 住民投票執行に至るまでの経過、
福島県知事は、昭和三一年二月一五日開催された福島県町村合併促進審議会に、岩瀬村大字滝のうち、字大新畑、チヤクノ下、前田、明神前、歳蔵田、林之越、中原、白砂、本郷、赤土、大日前、雁田、祖父子作、樟内、下河原、向田、不動畑、日向前、守子塚、志茂田、石沼、日向山、石妻山、不動山、新田道東(四番地の一を除く。)重兵衛、北久保(一番地の一を除く。)古屋敷(一番地の九を除く。)、馬場窪、白砂山(三番地の一を除く。)、高屋敷、炭焼(一番地の四を除く。)、林ノ越山(一番地の二を除く。)、北田(一番ないし二六番及び四七番ないし五二番)、石妻(一番ないし八二番。)、八升蒔(二九番ないし四四番、四八番ないし六五番、六八番の四ないし同番の七、同番の一〇ないし一六及び六九番ないし七三番)の区域を長沼町に編入し、両関係町村の境界を変更することを右両町村に勧告することにつき諮問したところ、同審議会から満場一致でこれを可とする旨の答申があつた。
そして、右審議会は岩瀬村から長沼村に編入すべき区域について、若干右と相違するも、その実態において著しく異らない限り知事が裁量処理して差支えない旨及び右両町村が知事の勧告を容れないときは、知事は再び審議会に諮問しないで直ちに住民投票の請求ができる旨まで含め決議し、その旨知事に答申した。
それで、知事は同月一七日岩瀬村及び長沼町に対し、前記のとおり境界を変更すべき旨の勧告(第一次)をしたところ、その勧告文書に次の誤記脱漏があることが判明したので、これを訂正するため同年三月一二日第二次の勧告(甲第一号証)をしたのである。
(1) 字大新畑を大新田と誤記。
(2) 字向田は、その一番ないし八七番に限定すべきを同字全部を長沼町に編入するかのように誤記。
(3) 字不動山、重兵衛、炭焼は、長沼町に編入すべき区域でなかつたのにこれを同町に編入するかのように誤記。
(4) 字八升蒔については、長沼町に編入すべき同字四六番地を脱漏。
知事の第二次勧告に対し、長沼町議会は同月二〇日可決したが岩瀬村議会は同年四月七日否決したので、知事は同月一七日岩瀬村選挙管理委員会に対し住民投票を請求し、同管理委員会は右請求にもとづき同年五月一〇日投票を執行し、その結果、有効投票一九〇票中前記区域を長沼町に編入することに賛成するものが一四〇票を占めたのである。
(二) 右第一次勧告書の誤記脱漏は、知事がさきに審議会の意見を求めるため作成した書面及び添付略図(甲第五号証)中、文書の部分に字名の通称ないしは俗称を正式の地名と誤つた誤記があることを知らないでこれにより記載したために生じたものであり、岩瀬村から長沼町に編入する区域の基本大綱については、第一次勧告も第二次勧告も変りがない。しかも知事は前記のように、基本的大綱を改変しない限り勧告の実施について多少の修正を施すことについて審議会の諒解を得ているのであつて、第二次勧告を違法無効であるとする原告の主張はあたらない。
原告らは、第二次勧告文書(甲第一号証)中、「さきの勧告を取消す。」との文言のみをとらえ、第二次勧告は第一次勧告と別箇の行政処分であるとして第二次勧告をするに際し、審議会の意見をきかなかつた違法があると主張するけれども、右第二次勧告書全体の趣旨並びに前記の事情から、第二次勧告は第一次勧告を訂正する趣旨であることが明らかであり、かような趣旨でした第二次勧告に改めて審議会の意見をきくことは必要でない。
(三) 仮に第二次勧告が第一次勧告を訂正したものでないとするも、知事は審議会の意見に拘束されるものではないから、審議会の意見を求めた区域と勧告した区域とが、小さな字名や地番のわずかな部分について相違するに過ぎない場合、改めて審議会の意見をきかなかつたからといつて、勧告そのものが無効となることはない。
本来審議会は議決機関でも執行機関でもなく、単に知事の諮問機関に過ぎないから、知事が行政執行権の発動として関係町村に対し勧告をする場合、基本大綱を改変しない限り審議会の答申と異なる勧告をしても、それは知事の執行についての裁量の範囲に属するものといわなければならない。
(四) 福島県知事は住民投票を請求するに際し、同問題についてのみ審議会の意見を求めたことはないが、前記のとおり知事は昭和三一年二月一五日開催された審議会においてその意見を求めた際、もし関係町村が知事の勧告に応じなかつた場合につき、住民投票の請求をすることの可否までをも含めて意見を求め、審議会はこれを含めて審議答申した。これは必然的な推移を予見してしたものであつて、行政手続の簡素化のため違法というべきではない。このような方法は厳密な意味では法文に背くかもしれないが、そのために知事の選挙管理委員会に対する住民投票の請求や、これにより執行された投票を無効とするほどのものではない。
(五) 投票はその管理規定に違反した場合に限り無効となるべきものであり、知事が分村勧告及び住民投票の請求をするについて、各審議会の意見をきいたかどうかというようなことは、住民投票前の知事の行政執行に関する問題であり、投票管理に関する問題ではない。
それゆえ、岩瀬村選挙管理委員会及び被告委員会は、知事が請求した住民投票がその形式要件を具備しているかどうかについては審査すべきであるけれども、それ以前にした知事の手続にまでさかのぼつて審査する権能を有しない。
(六) 仮に福島県知事が住民投票の請求をする際、審議会の意見をきく手続をとらなかつた違法があるとしても、投票の結果は三分の二以上が前記区域を分村することに賛成しており、投票以来一年七箇月も経過し、かつ分村される部落住民も大多数は分村することを希望し、長沼町に合併されることになれば、教育、経済、文化などすべての面で利益が多く、分村されても住民が岩瀬村に有する山林や国有林について、地元民としての権益について何らの不利益を及ぼすものでないから、右の違法だけで本件住民投票を無効とすることは公共の福祉に反する。それゆえ行政事件訴訟特例法第一一条を適用されたい。と述べた。
(立証省略)
理由
(一) 原告らが昭和三一年五月一〇日執行された福島県岩瀬郡岩瀬村大字滝の一部の地域を同郡長沼町に編入し、両関係町村の境界を変更することに関し、賛否投票の選挙人であつたこと、原告らが同月二二日岩瀬村選挙管理委員会に対し右賛否投票の効力につき異議申立をしたところ、同選挙管理委員会は同年六月一二日原告らの異議申立を却下したので、原告らは同月三〇日被告委員会に対し訴願を提起したが、被告委員会は「選挙管理委員会は選挙事務の管理執行に関する問題についてのみ権限を有し、選挙の事前手続についてはこれを判断する権限はない。」との理由をもつて原告らの訴願を棄却する裁決をし、その裁決書が同年一一月七日原告らに送達されたことは当事者間に争がない。
(二) 原告らは、前示町村の境界の変更につきした福島県知事の岩瀬村に対する昭和三一年三月一二日付書面による町村の境界を変更することの勧告(本件にいわゆる第二次勧告)及び岩瀬村選挙管理委員会に対する同年四月一七日付書面による賛否投票に付することの請求は、いずれも福島県町村合併促進審議会の意見をきかなかつた不法があり、無効であるから、これを前提とする前示賛否投票は無効であると主張するに対し、被告委員会はこれを争うので判断するに、成立に争のない甲第一、二号証、第五ないし第九号証、証人天野光晴、井沢保、三森忍の各証言を総合すると、次の事実を認定することができる。
すなわち、福島県知事は昭和三一年二月一五日福島県町村合併促進審議会に対し、福島県岩瀬郡岩瀬村大字滝のうち、字大新畑チヤクノ下、前田、明神前、歳蔵田、林之越、中原、白砂、本郷、赤土、大日前、雁田、祖父子作、樟内、下河原、向田、不動畑、日向前、守子塚、志茂田、石沼、日向山、石妻山、不動山、新田道東(四番地の一を除く。)、重兵衛、北久保(一番地の一を除く。)、古屋敷(一番地の九を除く。)、馬場窪、白砂山(三番地の一を除く。)、高屋敷、炭焼(一番地の四を除く。)、林之越山(一番地の二を除く。)、北田(一番ないし二六番及び四七番ないし五二番。)、石妻(一番ないし八二番。)、八升蒔(二九番ないし四四番、四八番ないし六五番、六八番の四ないし同番の七、同番の一〇ないし一六及び六九番ないし七三番。)の地域を同郡長沼町に編入し、右両町村の境界を変更するにつき意見を求め、これを可とする旨の同審議会の答申を得、右のとおり両町村の境界を変更する計画を定め、同年二月一七日付書面をもつて、右関係両町村に対し前記地域を長沼町に編入し、町村の境界を変更すべき旨勧告したが、その後右計画に粗漏があつたことを発見し、同年三月一二日付書面をもつて、岩瀬村大字滝のうち、字新畑チヤクノ下、前田、明神前、歳蔵田、林之越、中原、白砂、本郷、赤土、大日前、雁田、祖父子作、樟内、下河原、向田(一番ないし八七番。)、不動畑、日向前、守子塚、志茂田、石沼、日向山、石妻山、新田道東(四番地の一を除く。)、北久保(一番地の一を除く。)、古屋敷(一番地の九を除く。)、白砂山(三番地の一を除く。)、高屋敷、林之越山(一番地の二を除く。)、北田(一番ないし二六番及び四八番地ないし五二番。)、石妻(一番ないし八二番の三及び九七番。)、八升蒔(二九番ないし四四番、四六番、四八番ないし六五番、六八番の四ないし同番の七、同番の一〇ないし同番の一五及び六九番ないし七三番)の地域を長沼町に編入し、町村の境界を変更すべき旨あらためて勧告(本件にいわゆる第二次勧告)したこと、福島県知事は右第二次勧告をするに際し、福島県町村合併促進審議会の意見をきかなかつたこと右勧告にもとづき長沼町議会は町村の境界を変更することを可決したが、岩瀬村議会はこれを否決したので、福島県知事は岩瀬村選挙管理委員会に対し、同年四月一七日付書面をもつて前記第二次勧告に示した地域を長沼町に編入し、町村の境界を変更することにつき賛否の投票に付することを請求したこと、福島県知事が右第二次計画を定めたり、右投票の請求をするについて福島県町村合併促進審議会の意見をきかなかつたこと、第一次勧告と第二次勧告とを対比すると、岩瀬村から長沼町に編入する地域の面積が著しく異なり、第二次勧告による面積は第一次のそれより一二七町余(約四割四分)少くなつていること、以上の事実を認定することができる。
以上認定の事実によると、福島県知事は前示町村の境界変更につき当初の計画を第一次勧告後に変更し、第二次勧告どおりに計画を変更したと認めることが相当である。この事実と前記甲第一号証中の「なお二月一七日付三一地の勧告はこれを取消す。」との記載とを総合すれば、福島県知事は、原告ら主張のとおり、第一次勧告を取消し、第一次勧告と別箇の内容の第二次勧告をしたものと認定するのが相当である。
被告委員会は、福島県知事が町村の境界変更につき定めた計画の基本大綱には変更なく、単に第二次勧告は第一次勧告の誤記、脱漏を訂正したに過ぎない旨主張し、証人天野光晴、井沢保の証言はこれに添うのであるが、前記証拠を総合すると、福島県知事が甲第五号証の文書の記載によらず、同証添付の図面により計画を定めたとは認め難く、文書の記載と添付図面のくいちがいは、ひつきよう計画の粗漏に帰するものであり、したがつて、第二次勧告が単に第一次勧告の誤記を訂正したに過ぎないものとは認め得ないのである。
かりに福島県知事が甲第五号証添付図面により、町村の境界を変更する計画を定める考であつたとしても、これとくいちがいのある文書に添付し福島県町村合併促進審議会の意見を求め、かつ文書の記載に相応する第一次勧告をし、しかもこれには岩瀬村から長沼町に編入すべき地域を明示する図面を添付していなかつた(この事実は証人井沢保の証言により明らかである。)から、福島県知事の内心的意図はともあれ、いつたん文書をもつて前示のような勧告をした以上、さらに前記第二次の勧告をするには計画の変更手続によるべきものであり、内心的意図を基準に計画に変更がないということはできない。
さらに、被告委員会は、福島県町村合併促進審議会は、福島県知事から意見をきかれた際に、計画の基本大綱に変更がない限り、知事が岩瀬村から長沼町に編入する地域につき裁量することができ、かつまた、関係町村が知事の勧告を容れないときは、再び同審議会に諮問しないで賛否投票の請求ができる旨を決議し、その旨福島県知事に答申したから、知事が右第二次勧告及び右請求について改めて審議会の意見を聴かなくとも不法はない旨主張し、証人天野光晴井沢保の各証言はこれに添うけれども、これらの証言は証人三森忍の証言に対比して措信し難く、その他右事実を認め得る証拠はない。かりに右のような答申があつたとしても、第二次勧告の計画は第一次勧告の計画とは別個のものであるから、第二次計画やこれにもとづく請求について同審議会の意見を聴いたことにはならない。
そして、知事が地方自治法八条の二、一項の規定にもとづき市町村の境界変更の計画を定め、または右計画を変更しようとするときは、同条二項の規定により同項所定の者の意見を聴かなければならないのである。また知事は、法一一条の三、一項の規定により、特に必要があると認めるときは、町村合併促進審議会の意見を聴いて所定市町村の境界変更に関し、地方自治法八条の二、一項の規定により、所定の市町村に対し勧告することができるのであるが、法三七条の四は、「知事が町村合併促進審議会の意見を聴いて地方自治法八条の二、一項の規定によりする勧告でこの法律に規定されているものについては、同項の規定による計画を定めるにつき、町村合併促進審議会の意見を聴くの外、同条二項に規定する者の意見を聴くことを要しない。」と定めているのである。右法一一条の三、一項は、「町村合併促進審議会の意見を聴いて」と定めているが、地方自治法八条の二、一、二項、法一一条の三、一項、三七条の四を対照すれば、権衡上、知事が法一一条の三、一項の規定による計画を定め、またはこれを変更しようとするときは、町村合併促進審議会の意見を「聴かなければならない」とする法意であることが明らかである。また知事が、法一一条の三、三項に規定する請求をするについても、同じく町村合併促進審議会の意見を聴かなければならないことも、もちろんである。ところが、福島県知事が、第一次勧告にかかる計画を変更して第二次勧告にかかる計画を定め、また岩瀬村議会が第二次勧告と異る議決をしたので、選挙人の投票に付することを請求するについては、いずれも福島県町村合併促進審議会の意見を聴かなかつたことは、前示認定のとおりであるから、同知事の右各行為は、明らかに法一一条の三、一項、三項の規定に違反するものといわなければならない。
しかし、法四条によれば町村合併促進審議会は、県が地方自治法一三八条の四、三項の規定に基いておくことのできる知事の諮問機関であることが明らかであつて、法一一条の三、一項、三項が知事が右各項に定める行為をするについて右審議会の意見を聴くべきものと規定したのは、知事のこれらの行為を一層適切妥当なものとしもつて法一条にかかげる目的の実現達成に資させようとするものであつて、決してこれを右各行為の有効要件としたものとは解されないから、知事が右審議会の意見を聴かないでこれらの行為をしても右行為は、法律上いわゆる違法の行為ということはできない。
原告らは、被告委員会が福島県知事の前記請求の当否を判断する権限を有しないと裁決した点を論難するが、当裁判所は、次の理由により、被告委員会のこの点に関する右見解を正当と認める。(1)町村選挙管理委員会は、法一一条の三、三項に基く知事の請求があるときは、右請求が施行令一一条の二、一項の方式をみたす以上、法一一条の三、四項の規定により所定の期間内にいわゆる賛否の投票に付さなければならないのであつて、右請求や計画の適否、当否を審査することは許されていないのであるから、選挙管理委員会は、異議、訴願においても知事が町村合併促進審議会の意見を聴いたかどうかを審査することはできないものと解する。(訴訟においても同理である。)(2)賛否投票は、右請求に基いてする町村選挙管理委員会の町村合併促進法施行令六条所定の行為に始まる。そして右投票の結果に関する不服の理由は、右投票が投票に関する規定に違反したかどうかに限られるべきであるから、右投票手続開始前の行為である知事の請求や計画に関する事項を不服の理由とすることは許されない。(3)町村議会が法一一条の三、一項の知事の勧告と異る議決をしたときは、当該町村の長は、同条二項の手続をするのであり、また同条三項の請求があるときは、当該町村の選挙管理委員会は施行令一一条の二、二項所定の手続をするのであるから、当該地域の選挙人は、知事が審議会の意見を聴いたと否とにかかわらず、知事の定めた計画を十分に知つた上で賛否の投票をするわけであり投票の結果三分の二以上の賛成があつたかどうかによつて事を決すれば足りるのであるから、その結果がいかようであろうと、いまさら知事が審議会の意見を聴かなかつたことを問題として取上げる必要も理由も認められないからである。
してみると、本件賛否投票は有効であり、また被告委員会の裁決も正当であるというべく、福島県知事の勧告及び投票の請求が無効であることを前提に本件投票を無効として、その無効であることの宣言及び右裁決の取消を求める原告らの本訴は、失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 斎藤規矩三 沼尻芳孝 羽染徳次)